2023年11月に開催した「仙台画材フェスin青葉画荘」でも好評だった、米国ブランド「ダニエルスミス水彩絵具」が、2024年2月より青葉画荘でも店頭在庫化となりました。 2024年2月時点の店頭ラインナップは、
・5mlチューブ117色 ・5mlチューブにはない15mlチューブのPrima Tekシリーズ25色 ・ドットカード ・2023年春 新色5色(15ml) です。
ダニエルスミスはどのような特徴があるのか、また他ブランドとの違いはどのようなところなのかを考えながら、青葉画荘スタッフも試してみました。
【目次】 1. ダニエルスミス水彩絵具とは?
【1. ダニエルスミス水彩絵具とは?】
~Made in THE USA 世界のアーティストたちの為の革新的な絵具製造会社~
ダニエルスミス(DANIEL SMITH)は世界のアーティストたちのための革新的な絵具製造会社です。高品質なキナクリドン(Quinacridone)顔料を絵具にした最初の製造から、プリマテック(Prima Tek)とルミネッセント(Liminescent)の水彩絵具やウォーターカラーグラウンド(水性絵の具の下地)、実際に手で注いだハーフパンセットなど、ダニエルスミスは創造的な道具を開発し続けています。 (日本総発売元:株式会社べステック パンフレットより引用)
DANIEL SMITHの歴史は、1976年にアメリカでスタートした絵具製造会社です。 1832年に創立したイギリス・WINSOR&NEWTONや、1881年ドイツ・シュミンケ、1923年イタリア・マイメリなどと比べてみると、比較的若いブランドです。
優れた耐光性と耐久性を持つ色を作りたいという想いから、ダニエルスミスの水彩絵具「Extra Fine」シリーズ、鉱物から作られた「Prima Tek」シリーズ、「Luminescent Watercolor」シリーズとが発表されました。
ダニエル水彩絵具は、この3種類のシリーズを合わせて全266色(新色増色中)あります。他水彩ブランドの2倍以上の色数を誇ります。
【2. ダニエルスミス水彩絵具といえば「鉱物色・プリマテックシリーズ】
ダニエルスミス水彩絵具の豊富な色数の中でも、特に特徴的なのは「Prima Tek(プリマテックシリーズ)」ではないでしょうか。代名詞ともいえるシリーズです。
●Prima Tek(プリマテック)シリーズとは~歴史ある絵具の復活~
プリマテックシリーズは、「歴史ある絵具を蘇らせよう」という想いが発端だそうです。 産業革命以降、主に石油をベースにした有機顔料による色が新たに作られるなど、現代では色数が大変豊富になりました。しかし歴史を振り返ると、人々は洞窟壁画の時代から天然顔料を用いた色で絵を描いてきました。 ダニエルスミスではそんな歴史ある絵具を蘇らせるため、鉱物の原石を探す鉱物学者を採用し、天然絵具の原料を求めて世界中を調査するところから始めたそうです。 顔料を仕入れて絵具を作るのではなく、顔料を作るところから始めているのですね。ラピスラズリが金の青と呼ばれるほど貴重な原材料だったあの時代を彷彿とさせ、ダニエルスミスの絵具作りへの並々ならぬ想いを感じました。
【Prima Tekシリーズ特徴① 原料は天然鉱物系】
先に述べたように、ダニエルスミスは独自で天然鉱物の原材料を探すところから取り組んでいるため、Prima Tekシリーズの色は、C.Iに基づくピグメント表記(例:PB29、PW6のような表記)はありません。
「Genuine LapisLazuli」や「Natural Red Ochre」などといった顔料名表記になっています。
「どれがPrima Tekシリーズなの?」と迷われた場合は、このようなピグメント表記から探しても良いですし、チューブであれば、Pマーク、またはPRIMATEKのマークがついている為、探しやすいと思います。
あとは、色名に「ジェニュイン(Genuine)」とは言っている色からも探しやすいと思います。
また、PrimaTekシリーズは、15mlチューブにしかない色もある為、青葉画荘では5mlチューブを基本として、5mlにないPrimaTekシリーズの色は15mlチューブで在庫しています。
●実際に、Prima Tekシリーズを触ってみました。 左の丸は、紙面を先に濡らし、その上に色を拡げたものです。
右は濃く溶いた色をドライ紙面のまま拡げていったものです。 濃い色、薄い色、水に広がった時の雰囲気が見れるかと思います。店頭に同じものがおいてありますので、参考にお手に取ってご覧ください。
独特な表情や色合いがありますね。
茶系が充実しているのはもちろん、鉱物の色なのに、こんなにもはっきりと強い絵具の色になるのだと驚くものもあります。
ラピスラズリ、アメジスト、ブラックトルマリン、タイガーアイなど、宝石としても聞いたことがある名前がずらりと並んでいます。
ダニエルスミス 原料の鉱石一覧はこちらからご覧いただけます。鉱石のストーリーを読むだけでもわくわくしますね。
【Prima Tekシリーズ特徴② グラニュレーション色(粒状化現象)が多い】
Prima Tekシリーズの色は、比重の重い天然鉱物を原料としている色が多いことから、グラニュレーション色も多めです。
グラニュレーション色とは、紙面に塗った時に、ザラザラと粒状したように見える色のことです。顔料の比重が重く、紙面の凹凸に顔料が入り込む為、このような見え方をします。 グラニュレーション色の共通定義はなく、各ブランド毎の表記になります。その為、「グラニュレーション表記はないけれど、なんだか粒状化してみえる気がする」という色も中にはあるかと思います。
グラニュレーション色だから混色制限があるとか問題があるということではなく、見え方の部分ですので、好みに応じて使い分けて問題ありません。
グラニュレーション色は描画コントロールがしづらい部分でもありますが、画面に表情が生まれ、質感として効果的に活用することができます。
あらかじめ、その色が紙面でどのような表情になるのかを試しておくと、画面作りがしやすくなるかと思います。
砂地や壁などにも活かせそうなグラニュレーション色。フラットな質感の水彩絵具を筆のタッチや描き方で変化を見せるのではなく、色そのものの質感で作品に活かすことができます。
【Prima Tekシリーズ特徴③ 天然のキラキラとした輝きのある色がある】
一般的なイリデッセントカラーのように、雲母などを混ぜたキラキラではなく、鉱物原材料由来のキラキラした色がダニエルスミスにはあります。
写真ではなかなか見えづらいですが、とても品のあるきらめきです。
このようなキラキラした色は、原画の魅力であり、色を塗っているときの楽しさがありますね。
【3. ダニエルスミスが元祖「分離色」?】
ここ数年、SNSなどを中心に水彩画ユーザーさんに話題の「分離色」。
分離色とは、水彩絵具において最初は1色に見えた色が紙面上で2色または3色などに分離して見える色や現象のことを指します。 「分離色」という言葉は最近耳にするようになった気がしますが、現象としては昔からあります。どちらかというと絵具製造メーカーは、色が分離しないように調整、品質を改善してきたという傾向がありました。ですが最近では、「分離色絵具」として各ブランドからも商品として出ているほど、このような色がとても人気になっています。
分離色の定義は難しいのですが、まず、どうして分離して見えるのかというと、主に顔料を二つ以上含む水彩絵具をたっぷりの水で溶いて紙に塗った時に、比重の大きい顔料が早く沈み、比重の小さい顔料は水に乗って、遠くに漂っていく為に見られます。
ダニエルスミス水彩絵具の分離色でいえば、
・ローズオブウルトラマリン…PB29、PV19と、青と紫系統の2種類の顔料が使われた分離色、
・ムーングロウ…PG18,PB29,PR177と、緑、青、赤系統の3種類の顔料が使われた分離色
・シャドウバイオレット…PB29、PG18、PO73と、青、緑、オレンジ系統の3種類の顔料が使われた分離色
このあたりが該当します。
また、ダニエルスミス Prima Tekシリーズには、顔料は1種類なのに分離色に見える色があります。
・グリーンアパタイトジェニュイン…顔料:Genuine Green Apatite
・サーペンティンジェニュイン…顔料:Genuine Serpentine
など。
こちらは顔料は1種類なので、複数顔料の比重の差ではなく、顔料そのものの特徴として色が複数色見えるタイプの分離色カラーです。
① ダニエルスミス独自の鉱物顔料による分離色がある
② 複数顔料の混合による分離色がある
③ 分離色を避ける傾向にあった他ブランドと異なり、ダニエルスミスは独自の色彩を追求してきた
この辺りが水彩ユーザーさんたちを魅了し、「ダニエルスミスの分離色が素敵!」となってきたのかなと思いました。
分離色は、その仕組みを踏まえると、絵具の混色によっても分離色カラーを作ることができます。混色による分離色について詳しくは、「マイメリブルー 分離色の作り方」も参考にご覧ください。
【4. 3原色を試してみた】
ダニエルスミスは、全266色もあるので、まずは基本となる三原色を試してみました。
ダニエルスミスの三原色は、ピロールレッド(PR254)、ハンザイエローライト(PY3)、ウルトラマリンブルー(PB29)です。
他ヨーロッパブランドの三原色より、真っ赤、真っ青、真っ黄、といった感じの三色です。
ダニエルスミスの三原色の青・ウルトラマリンブルー(PB29)は、グラニュレーション色なので粒状化してみえ、黄色と赤色とは質感が異なります。また透明色なので、色相環を作る時は少し弱く見えるかもしれません。 この3色で混色して描きたいという場合は、その2点ご注意ください。
5. 人気色を試してみた
ダニエルスミスの日本総発売元・べステックの担当さんに人気色11色を教えていただき、試してみました。
1番人気は、ムーングロウ だそうです。
PG18、PB29、PR177の3つの顔料の分離色です。紫の中から、緑色などが覗いており複雑な色合いになっています。
バフチタニウムも、使い勝手が良い色で人気だそうです。白い物体の影や、人物画の肌などにもオススメだそう。
6. まとめ
いかがでしたでしょうか。
アメリカブランド・ダニエルスミス水彩絵具は、天然鉱物を用いた他ブランドにはない色が多数あります。また、グラニュレーション色や分離色など、コントロールはしにくいながらも、画面に表情を生み出す色が多いのも特徴です。 色塗り見本を参考にしていただいたり、ドットカードを実際に使ってみることで、色から作品作りのアイディアが湧くのではないかと思います。
青葉画荘では、2024年2月より、東北初としてダニエルスミス水彩絵具の店頭在庫化をスタートいたしました。また、弊社通販サイト 画材販売. jp でも同じくお取り扱いがございます。
ぜひ便利にご利用いただければ幸いです。 ※こちらの記事で掲載した色見本は、店頭にてご確認いただけます。 また、新規導入記念キャンペーンや、ダニエルスミス水彩絵具体験会なども実施しております。詳しくはこちらをご覧ください。
7. 記事内で紹介した ダニエルスミス水彩絵具一覧
色名をクリックすると、弊社通販サイト 画材販売 . jp の商品ページへ飛びます。
【三原色】 ・ピロールレッド(PR254) ・ハンザイエローライト(PY3)
【Prima Tekシリーズ】 ・ラピスラズリジェニュイン
【べステック調べ・人気11色】
・イリディッセントビブラントラズベリー(イリディッセントバイブランドラズベリー)
・クロムチタンイエロー(クロムチタナイトイエロー)
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